hamatra paper vol.106(11/10 名古屋グランパス戦で配布)に掲載した、特集「ネンチケのススメ 」。
本特集でインタビューさせていただいた、横浜マリノス・第一事業部チケットセールスグループ部長の永島誠さんとクラブに許可を頂き、インタビューの全文を hamatra.comで公開します。
前編はこちら
(インタビュー:蒼井真理)
◆プロフィール
永島誠(ながしままこと)
1966年10月16日生まれ、鹿児島県出身。横浜国立大を卒業後、「ぴあ株式会社」に入社。チケット販売やイベント企画・プロモーションのノウハウを学ぶ。2004年、横浜マリノス株式会社に入社。現在は第一事業部チケットセールスグループ部長として、広告宣伝やチケット販売業務の責任者を務める。
■来季2014年から、チケットを値上げする理由
――Q4.F・マリノスのオフィシャルサイトで嘉悦社長からも説明がありましたが、改めて来季のネンチケ・一般チケットの値上げを決定した理由を教えてください。
※2014年シーズンのチケット価格・料金改定について
http://www.f-marinos.com/news/detail/2013-09-27/130000/125702
消費税の引き上げが事前に予想されていた事もありますが、チケットの単価については3年くらい前から調査を続けており、実際に値上げをする方向で固まったのが今年の3月くらいです。他クラブと比較すると、チケットの「購入平均単価」に大きな差がありました。オフィシャルサイトで嘉悦は「最も高いクラブと約1000円もの開きがある」と書きましたが、本当はもっと差があります。仮にその差をそのまま埋められれば4億円以上の増収となり、昨季の単年赤字(6億2900万円)も、その多くが解消できます。
ここを誤解していただきたくないのですが、「F・マリノスの自由席は他クラブに比べ安いから値上げしよう」ではなく、購入いただいた全席種チケットの「購入平均単価」が他クラブと比べ低いのです。つまり、単価の高い指定席が売れていない。
その理由を考えると、日産スタジアムは国内最大のキャパシティを誇る巨大なスタジアムで、「自由席」でバックスタンドも含めた多用なエリアから観戦することができる。さらに現状では来場が遅くなっても、指定席を買っておかないと席が見つからないという心配もほとんどない。そのために、かなり多くのお客様が最も価格の低い「自由席」を購入されています。
ですから当然、席割りも含めた改定案も検討しましたが、席割り(現在の自由席の一部を、指定席やゾーン指定席に変更する)は「次のステップ」だと考えました。まずはチケット全体の単価を見直した上で、ファン・サポーターの反応を踏まえ、状況を見ないと、皆さんの需要・要求からズレた席割りになってしまう可能性もある。チケット単価の見直し・価格改定と同時に席割り変更も行うとファン・サポーターの混乱も大きくなるので、席割りの改定は来年・再来年以降の課題と捉えています。
たとえばバックスタンドを全て指定席にしたとして、購入される方が少なくて空席が増えると選手がピッチに出てきた瞬間に失望するでしょうし、テレビ中継などの見栄えの問題もあります。その一方で、ゴール裏の自由席ばかり人が増えて席取りが過熱したりするのも問題です。
現在は「自由席」を選択した方が、かなり優遇された席割りになっています。ネンチケ購入者の70%は自由席ですし、大切にしなければいけない。なので、現在「自由席」を購入されて様々なエリアで観戦されている多くの皆さんから、できるだけ不満がでないような席割りを考えていかなければならないと思っています。
■チケットの購入平均単価を上げるために
――日産スタジアムのスタンドの構造と、席割りの上で、例えば横からの視点・俯瞰で試合を観たい人にとっても、自由席を買ってバックスタンド2階から観るのと、SS席やSA席を買ってメインスタンドから観るのと、試合の観やすさにほとんど違いがないのも大きな問題だと思うのですが。現状ではファン・サポーターにとって指定席を購入するのは、「クラブにより多くのお金を落として貢献している」という自己満足、ロイヤリティを示す行為でしかないのかな、と。
ただ今年、2013シーズンはSS席のホーム側が完売になる試合が増えているんです。その理由は、初めてスタジアムに観戦にくるお客様が増えているから。「指定席の方が試合がよく見える」とか、「自由席を確保するために列に並んだり早く来場するより、ゆったりしたい」と考える人が多いようです。
顕著なのが9月のセレッソ大阪戦で、柿谷選手が目当ての、これまでスタジアムに足を運ばなかったような人が大挙してメインスタンドを埋めてくださいました。先日の広島戦もそうだし、SS席の購入が増えたということは、新規のお客様の取り込みも進んでいるのかなと思います。実際、今季はチケットの購入平均単価が昨季に比べて、150円ほどアップしています。150円違うと、それだけで、入場者は同じだったとしても年間の売上は8,000万円も違ってくるんです。
そうやって新規のお客様をメインスタンドに呼び込みつつ、既存のファン・サポーターにも満足いただける席割り改定を行うことで、F・マリノスにとって大きな課題である「購入平均単価の向上」も少しずつ達成できるのかなと思っています。
■入場者数を増やすため、ファン・サポーターにできること
――Q5.F・マリノスの入場者数・ネンチケ購入者を増やすため、ファン・サポーターがクラブに協力できる事、あるいはクラブからの要望はありますか?
現状でも既に、試合当日のスタジアムで、あるいは試合のない日のスタジアム外でも、たくさんのファン・サポーターの皆さんに様々な協力をいただいており、非常に有難く思っています。
先日、リクルートのじゃらんリサーチセンターが、全国18~69歳の男女、約1万8,000人に対し行った大規模なインターネットによるアンケート調査結果を発表しました。それによれば、「初観戦のきっかけ」は、「友だちや家族に誘われて」といった勧誘・口コミを理由と回答した割合が80%前後で、私たちが想定していた通り非常に多かったんです。
なので、現状でも様々な協力をいただいていますが、組織的な活動でなく個人レベルでも、もっと学校や職場、あるいはTwitterやFacebook、LINEの中で、「F・マリノスの試合に行って、楽しかったよ!」と話題にして、知人を試合に誘っていただけると、「そんなに楽しいの? じゃあ行ってみようか」という人も増えると思います。
クラブにとっては、1回以上試合に来場された方に、また来てもらえるように例えばスタジアムのホスピタリティを向上したり、試合以外でも魅力的なイベントを組んだりと様々な方策はあります。「観戦経験がゼロの人を1にする」のが最も大変で、告知にもコストがかかります。
試合観戦に来たことが無い人を呼び込むには、やはり実際にスタジアムに来ている皆さんが、観戦・応援の魅力を伝えて誘うのが最も効果的だと思います。
■スタジアムの楽しみは「観戦」だけじゃない
――リクルートの調査報告は私も読みましたが、「初観戦の満足度」は「サッカーに非常に詳しい人に誘われて」観戦したケースで高くなるという結果もでていました。事前に試合の見所や選手の特徴を伝えたり、試合中に隣で解説したり、疑問に答えてあげるのも大事な要素で、その意味でも私たちファン・サポーターは「勧誘者」として適任なんだな、と。
そうですね。さらに加えて、試合前のイベントやスタジアムグルメについても予め告知して頂けると、「それもあるんだったら行こうかな」と思う方や、「早めにスタジアムに行こうか」という方も増えると思います。私たちの考え方としては、キックオフぎりぎりに来て「試合だけ観て帰る」お客様をなるべく減らしたいんです。
――当然、ホームゲームにも盛り上がりに欠けたスコアレスドローの試合もあれば、F・マリノスが負ける試合もある訳で…。
それだけでスタジアム観戦の印象が悪くなると、次に「また来たい」と思っていただけず、リピート率も上がりません。なので、キックオフ3時間前からトリコロールランドを開催していて、毎回違ったイベントやグルメ企画を開催していること、試合だけでなく小さなお子様も含めファミリーで楽しめる場所であることを知って、体験して帰ってほしいんです。
――確かに、観戦・応援歴の長いファン・サポーターほど「試合と応援が全て」で、そういったライト層の目線から誘ったり、伝えることを忘れがちかもしれません。まずは次の試合どんなイベントが予定されているか調べるところから始めないとダメですね(笑)。
そうすれば、「試合は負けちゃったけど、楽しかったね」と感じてくれる初観戦のお客様も増えると思います。そういった試合だけでない付加価値の情報も、勧誘の際に伝えてほしいですね。
■大切なのは「参加して楽しかった」記憶
――あとサポーター目線で言えば、試合中はただ座って大人しく観てるだけじゃなくて、少しでも応援に参加してほしいですね。「参加した」感が得られれば、初観戦でもただ「負けちゃったね」じゃなくて「悔しい、今度は勝つところが見たい」と感じる人も出てくるんじゃないでしょうか。そう思って、歌詞カードを掲載した「バモバモコミック」も配布しているのですが。
そうですね。先日の広島戦でもゴール裏のサポーターが主導して小旗をゴール裏の自由席に置いて、大がかりなコレオを実施していただきました。あれも初観戦者の、「参加した」感につながると思います。コールリーダーのひろあき君から追加のお願いがあったので、また新たに1万5,000本の旗をクラブで購入します。ぜひ上手く活用してほしいです(笑)。でもそれによって単純に、1万5,000人も応援に「参加する」人が増える訳ですからね。
――小さな子供は、試合中もピッチそっちのけで小旗を振っていたりしますが(笑)、それが「スタジアムに来て楽しかった」という記憶につながれば良いわけで。
今シーズンから、試合前に「民衆の歌」を歌おうという試みも行っていますが、来季はもっとスタンドの全員が歌えるようにするための仕掛けも考えています。
――歌詞がオーロラビジョンでなく、ピッチレベルのLEDにしか掲示されないため、「分かりにくい。だから歌えない人が多い」と言う声もありますが?
いろいろクリアしなければならない関係各所の問題、ということもありますが、演出的に考えてもオーロラビジョンに歌詞を出すのが良いのか? という考えも正直あります。あの映像は1つの作品として考えてもいますので。F・マリノスの歴史の重みを感じさせる美しい映像に、歌詞を重ねるのは…。なんかよそのクラブっぽいというか(笑)。
――ああ…。確かにあの映像は素晴らしいですし、歌詞が前面に出ると川崎フロンターレとかFC東京っぽいというか、無粋な感じになるかもしれませんね。
そこはファン・サポーターの皆さんの意見も聞きたいのですが、僕や演出チームの個人的な意見としては、あの映像には歌詞を重ねたくないなあという気持ちはあります。
――ハマトラ紙や、バモバモコミックに「民衆の歌」の歌詞を掲載するのは大丈夫なんでしょうか?
おそらく大丈夫だとは思いますが、確認しておきます。
■「招待券は大っ嫌いです!」
――永島さんから、「これだけは言っておきたい、伝えたい」というものは何かありますか?
お客様が増えると、「招待券をバラ撒いているからだ」という方が必ずいらっしゃいますが、私は招待券は大っ嫌いです。チケットは売ってナンボで、F・マリノスの試合に価値を感じてお金を払って来場いただくことに意味があるんです。「招待券をバラ撒くのは大っ嫌いだ」と永島が言っていたと、ちゃんと書いておいてください(笑)。学校単位の観戦会もちゃんと買っていただいていますから。団体観戦なので多少は割り引いていますが。
それと、日産自動車の販売店でお客様にお渡ししている招待券も、買っていただいているんです。受け取った人はタダかもしれませんが、F・マリノスは「販売して」いるんです。無料で受け取られる方にしても、自動車を買ったりした際など、何らかの対価として受け取っていますから、決して「無償提供」とは思っていません。現在はスポンサー様に契約の一部として決まった枚数の招待券をお渡しするなど、必要最低限の枚数しか「招待券」は出していません。
■少しずつ芽を出す、地道なホームタウン活動の効果
――優勝争いも佳境に入る中で、中村俊輔選手の姿と『この街に、頂点を。』の文字が入った「のぼり」がホームタウン各所に2,000本設置されるようになりました。地元の商店街など、最近のホームタウンにおける活動の手応えは、どんなものでしょうか?
色々なところで、F・マリノスに協力していただける機会が増えています。今までだったら、横浜市内の小中学校が入口の付近にF・マリノスの「のぼり」計500本を設置してもらうなんて事は有り得ませんでしたし、市内のスポーツセンターや港北区や都筑区の商店街も「のぼり」の設置に手を挙げていただきました。
これこそ、正に地道なホームタウン活動の成果だと思います。地に足をつけた活動を継続してやろうと、「ホームタウン推進本部」という専従の部署を作って本腰を入れ始めたのが2006年頃です。6、7年経った今、ようやく撒いた種が芽を出し始めている。ホームタウン活動は、本当に時間がかかるものなのです。
例えば地元商店街へのアプローチにしても、最初から「チケット買ってください」「試合を観に来てください」って言うと、「ああ、それが目的なのか」と思われてしまう。夏祭りなどのイベントに協力したり地道なお付き合いを続ける中で、商店街の方から「F・マリノスの試合観戦会を開きたいんだけど、チケットを手配してもらえるかな?」と言っていただけるようなケースが、この1、2年はとても増えています。
■ネンチケホルダーは、最も重要なパートナー
――クラブにとって「年間チケットホルダー」とは、どのような存在でしょうか?
ネンチケを購入いただいているファン・サポーターの皆さんは、クラブにとって最も重要なパートナーと捉えています。先程も言いましたが、必ずしも全試合に来られないと分かっていても購入してくださる方が大勢いらっしゃいますし、青森県や北海道に在住で購入されている方もいらっしゃいます。
――では今後、たとえば席割りの変更など改定を行うとしても、できるだけ多くのネンチケホルダーの意見を汲み取りたい、と?
そのためにアンケートも実施して、色んな声を既にいただいています。ある人は「良い」というものでも、別の人は「悪い。改善してくれ」という意見も多々あります。ネンチケ購入者の全員が満足されるような回答・改定はできないかもしれませんが、できるだけ多くのファン・サポーターの方に喜んで満足いただけるように、可能な限り年間チケットホルダーの皆さんの声を反映できるように工夫したいと考えています。
■適切な距離感を保ちつつ、目標は同じ
――最後に、ファン・サポーターへのメッセージをお願いします。
日産スタジアムの空席を埋める、ご来場者数を増やすための活動はクラブだけがシャカリキに行っても、なかなか効果が出るものではありません。試合で選手たちと皆さんが共に勝利を目指すのと同じで、ファン・サポーターの皆さんと一体となって行う中で成果が表れるものです。
今後も、F・マリノスに対する様々なサポート活動を継続していただきたいですし、クラブも皆さんと話し合い、皆さんが活動しやすい環境を提供していきたいと考えています。今はクラブの私たちと、ファン・サポーターの皆さんが目指す「F・マリノスの目的地」は、おそらく大きくズレていないと思いますので、しっかり共有しながら一緒にクラブ、チームや選手たちを支えていってほしいですね。
――永島さんが2004年にF・マリノスに入られてから、クラブとファン・サポーターの距離感や関係性は変わったと思われますか?
当時はファン・サポーターの中でも、クラブやチームを支えるための考え方に対立があったり、まとまり切れていない部分もあったと思います。でも今は目指す方向性がひとつになってきていると感じますし、色々なグループや個人が一緒になって一緒にクラブとチームを支える活動をされていると思います。
ファン・サポーターの皆さんとクラブは、かなり意識を共有できるようになりましたが、かと言って土足で互いの領域に踏み入れるようなこともない。現在は適度な距離感を保ちながら、協力し合えているのではないでしょうか。他クラブの様子を見ても、あまりファン・サポーターとクラブが「ベッタリ」な関係になるのも良くないと思いますから。
――そこはF・マリノスらしい、あるいは横浜らしい一線の引き方、距離感とも言えるかもしれませんね。
それはあると思います。横浜の人、あるいはF・マリノスのファン・サポーターの皆さんには「過度な馴れ合いを求めない」気質があるのではないでしょうか。自主的に考えて活動することに価値を感じており、あまり互いに干渉・介入し過ぎない。だからと言って、目標や価値観を分かち合えていない訳でもない。ファン・サポーターの皆さんとクラブは、良好な距離を保つ中で互いに協力することができていると感じています。
2014 年間チケットのお申し込みの詳細は横浜 F マリノスホームページをご覧ください。
横浜 F マリノス 2014 年間チケット ホームページ